浄土真宗本願寺 福岡教区

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みんなの法話

髙石彰也 本願寺派布教使 西嘉穂組 正円寺

かつて数えきれないほどの戦死者を出し、1945年に終結した第二次世界大戦で、世界中が戦争の虚しさを知ったはずであった。

だがまもなく朝鮮にて、更にベトナムで、以後大小様々な戦火は絶えず止む事がない。

 

この度のロシアのウクライナ侵攻にいたっては、過去の歴史的事情はあるにせよ、一方的にまるで近代兵器の実験場の如く、無辜の民の惨殺や建物の破壊をほしいままにしている。

戦争の歯止めの為に作られた国連の機関も、一国の人間の「正義」の名と「愛国心」をふりかざした底無しの身勝手な欲望追求の戦争にもかかわらず、今のところほとんど無力である。

それどころか、この侵攻を契機に多くの国が、自由を守り戦争を防ぎ、平和実現の為には、軍事力を増強させるほかないという血迷った方向へ舵を切り始めた。つまり「国を守る為に命を惜しまない」という本末転倒の軍国主義への回帰である。

日本もまた例外ではなく、この機に乗じるように、武装放棄と戦争否定を定めた憲法九条を改悪し「交戦権」の復活や民衆の国家への従属を折り込もうとしている。

 

本来釈尊の教説では「本当の国の豊かさと民衆の安らぎには、兵器や戦士は不用で、殺さず殺されず、殺させてはならない」と。

親鸞聖人もまた「人民の安楽には兵戈戦息(本典化巻※)」と明記されている。

また聖徳太子の「和を以って貴としと為す」は広く大衆に浸透している。

 

ロシアのプーチン氏は、ロシア聖教の熱心な信徒という。

けれども政治権力が宗教と結びつけば、神の加護を頂いた人間は罪の意識が消えて「さるべき業縁のもよほさば、いかなるふるまいもすべし(歎異抄)」という本来の不殺生戒を破り、真逆のアヘンのはたらきへと転落することを証明していないだろうか。

 

さて、戦争は最大の環境破壊と言われる。2016年には「気象非常事態宣言」が発出されていて、後戻りできない程の自然崩壊(例えば氷山崩落)の瀬戸際にあるという。

いつぞやの社説に「人間にとって地球はなくてはならないが、地球にとって人間は必要か」との問いかけがあった。

これらの末法の世への警鐘に、世界中の人々が即刻耳を傾け、心に刻む事がなければ、安楽国への往生の道は開けない。

 

 

2022(令和4)年 5月8日 記

 

※「兵戈戦息」は『教行信証』坂東本(草稿本)における表記です。定本とされる本願寺本では「兵戈終息」となっています。