浄土真宗本願寺 福岡教区

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みんなの法話

香月信暁 本願寺派布教使 遠賀組 照圓寺

「ヤマアラシのジレンマ」というお話をご存知ですか。ヤマアラシは体中に鋭いトゲ状の針毛を持つ動物で、冬の寒さをしのぐため、お互いの体を寄せ合おうとすると、その針毛がお互いを傷つけ合ってしまう。しかし、離れれば寒さで凍えてしまうので、また少しずつ寄り添い合う、近づきたいが相手を傷つけてしまうと、そんな葛藤を表す話です。

 

兄が中学2年、私が小学5年の時、父が浄土往生し、母は夜中でも、御門徒の依頼があれば、下駄で歩いてお参りに行きました。そんな母の苦労に、兄弟で話し合い、こづかいを出し合って、簡便な座椅子をプレゼントしました。その時、つれあいを戦争で亡くし、同居していた叔母が、泣き崩れました。母と変わらぬ愛情を注いでくれた事に、気づかぬ私でした。「よかれ」と思ってした事も、他者を傷つけてしまうことを思い知った60年程前の出来事です。御開山は、御和讃に、

西路を指授せしかども

自障障他せしほどに

曠却巳来もいたづらに

むなしくこそはすぎにけれ

(善導讃)

とお示しです。いのちのゆくえを西方浄土と聞きながらも、思うようにならぬ事情をかかえたまま、また、思わず人を傷つけながら生き戸惑う私です。その私をそのまま救わずにおかないと、立ち上り、抱き取って、歩んで下さる阿弥陀さまがご一緒です。

 

自他を傷つけた事実を改めよというのでもなく、そのようにしか生きられぬ私のありようを、見ぬかれた上で、批判や改善を求められず、そのままの救いを、南無阿弥陀仏に成就された阿弥陀さまに、この身このままお任せする他にないお救いです。