「共に念仏申す身となる」(2026年7月)
嶋津教信 本願寺派布教使 北豊教区 上毛組 円光寺
北野さきさんを御存じでしょうか。北野武(ビートたけし)さんの母親です。経済的にとても苦しい中、さきさんはご自身の食費などを切り詰め、大変なご苦労の末、四人のお子さんを育てあげられました。
そんなさきさんが、ことあるごとに武さんにお金をせびるようになりました。
やがて武さんはさきさんを「母ちゃん」ではなく「くそ婆」としか呼ばなくなります。
時が流れ、さきさんは入院生活を送ることとなり、武さんは仕事の合間に見舞いに行っていました。ある日、見舞いを終えた武さんの元へ、さきさんのお世話をしている姉の安子さんが駆け寄り、紙袋を武さんに手渡しました。中身は数冊の武さん名義の預金通帳でした。
「お母さんはあなたのことが一番心配だったのよ。」
と、さきさんから通帳を言付かった時のことを話されます。
「武は芸人じゃ。一つ転べば全てを失う。でも、あの子の性分では貯金しやしない。それに弟子や付き人になって下さっている方々をあの子が養っていかなければならない。だから、私がお金をせびるフリをして貯めといた。何かあったらお前から武に渡しておくれ」
武さんの目からは涙が零れていました。
しばらく後さきさんの通夜が営まれ、姿を現した武さんにテレビがインタビューを試みました。が、武さんはカメラを振り払いその場にうずくまって喚き泣くばかりでした。声にならない声をあげる中、唯一言葉として聞き取れたのは
「母ちゃん」
でした。
くそ婆としか呼ばなくなった武さんが、「母ちゃん」と呼んでいたのです。武さんをして、「母ちゃん」と呼ばせたのはやはり、他ならぬさきさんです。
翻りまして、阿弥陀様が仕上げてくださった「南無阿弥陀仏」の名号が私の上に至り届き、私の中に入り満ちて私の口から念仏となって現れ出てくださっている。阿弥陀様が私を念仏申す身とならしめてくださっているのでした。